代々木ゼミナール(代ゼミ)の講師たちとその魅力〜1年間の受講経験を基に率直な感想を綴ってみた

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 代々木ゼミナールは、6年前にお世話になった予備校であり、知識・知恵をたくさん教えていただきました。当時から受講生の数、東大合格者数だけ見ると、駿台・河合塾には見劣りするところはありました。しかし、「講師の代ゼミ」というタレコミで、それなりに浸透している感じでありました。今では「名講師陣」といえば、真っ先に東進ゼミナールが上がるほど、代々木ゼミナールの人気は落ちているような印象を受けます。それでも、私の受講経験から、代ゼミの講師たちの実力は確かで、魅力のある講師陣だと思います。その一端でも紹介できればいいなと思っています。

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私が代々木ゼミナールを選んだ動機と受講後の体感との比較

1年間の受講料金

再受験に分類される私の場合、いわゆる「東大不合格A判定」や「OO高校特待」のような特権がありません。そのため、予備校が設けている「入学前診断テスト」を受けて入学することになります。少なくとも当時は、駿台や河合塾では、このテストで満点を取ろうとも、入学料を割引するようなサービスはなく夏期講習や冬季講習を除いて、年間70万円程度かかるそうでした。ただし、代々木ゼミナールでは、入学前診断テストの結果次第で、最大50%受講料を割引することができました。この制度は今でも続いているはずで、なるべく安く予備校のフル入学をしたいという場合は、代ゼミが1つの選択肢に入ってくると思います。

講師の代ゼミ

 当時は、テキストの駿台、生徒の河合、講師の代ゼミなどと呼ばれていました。その中で、私がもっとも重要視したのは「講師」でした。代ゼミの講師の中で知っていたのは、日本史の「土屋文明」先生のみで、知っていると言っても、高校時代に代ゼミの単科を受講している友達がいて、その人からよくその先生の話を聞いていたからです。友達の話を総合すると、とにかく「変な人(情報量…‥)」という印象でした。それでも、講師が有名だということはネット検索からおぼろげながらわかってきて、どんな授業をしてくれるのか興味があった、ということが代ゼミに決めた最大の理由かと思います。

受講後との比較

 私は、ビデオの授業よりも対面の授業を好んでいたので、自宅からは遠かったのですが、あえて本部校を本拠地に選んでいました。目の前でその「名物講師」たちの授業を受けた感想として、「講師の代ゼミ」のタレコミは、私を裏切らなかったというのが何よりの感想です。代ゼミの講師たちはそれぞれ自分の「哲学」みたいのを持っていて、それに絶対の自信を持っているようです。そのため、その哲学を生徒に押し付けるような授業スタイルをもつ講師もいます。そういう「癖のある」講師たちを相手にしていても、込み上げてくるものは、反感というよりは「感動」や「楽しい」という感覚でした。なんというか、そういう癖のある講師ほど、心底その科目の授業を楽しんでいるという印象を受けたからだと思います。

ここで紹介する講師陣

国語

  1. 漆原 慎太郎 (現代文・古文・漢文)
  2. 北澤 絋一 (漢文)
  3. 船口 明 (現代文)

数学

  1. 岡本 寛
  2. 荻野 鴨也
  3. 西岡 康夫
  4. 藤田 健司
  5. 山本 俊郎

英語

  1. 富田 一彦
  2. 西 きょうじ

物理

  1. 漆原 晃

化学

  1. 亀田 和久

講師の特徴・指導方法

国語

講師 漆原 慎太郎

 東京大学文科一類出身の国語講師で、1人称は「うるし」。東京大学の入試問題(古文)を傍線部1箇所を除いて全的中させたすごい人。本人曰く、「出題する文章が被ったのはラッキー。だけど、ほとんどの傍線部を一致させたということは、うるしは東京大学の教授と同じ思考で問題を作っているということ!」と評しています。

 ここでは特に古文のうるしに注目したいと思います。古文では、助詞・助動詞に注目し、その文章を極めて論理的に解明していく様は見ていて清々しい気分にさせられます。独特の「替え歌暗記シリーズ」は、AKB48の替え歌で助詞・助動詞を覚えたり、重要な古文常識を暗記することができるように作られています。特に、うるしは古文常識を重要視していて、その例としてこんな例をあげています。

1000年後の日本人が「ジャンプを買いにファミマに行った」という文章を見て、理解できるのかを考えてほしい。「ジャンプ」と「ファミマ」という当時の「常識」がなければ何も理解できない。こういう常識がなければ、当時の文章を理解できるはずもない。

 うるしの哲学は、「とにかくノートに板書を書き写すスピードを上げること」が成績向上に関係しているということ。字はいくら汚くてもいい。しかし、そのスピードが大事、ということです。授業は先生の発言を理解することに費やすべきであり、板書を綺麗ノートに書くことではないという理論に基づいています。そのため、授業スタイルは生徒にテキストをあらかじめコピーしてもらい、そのコピーにうるしの板書を全て書き込んでいくという方法です。うるしは問題文の文章を必要な箇所は全て黒板に書くので、コピーさえとっていればそれをノートに書く必要がなく、うるしの言っていることを理解した上で、それをさっとコピーに書き移せるというわけです。さらに、うるしは基本的に「解答」を書かず、「解答するために必要なエッセンス」を講義で紹介し、実際の解答を生徒に書かせるというスタイルをとります。すなわち、コピーを授業によって、そのまま「解答・解説」に変えてしまうというスタイルです。このようにして、「正しい解答の書き方」を生徒に与えていくというのがうるしの授業スタイルです。

どういう人向け?

 東大・京大など、難関大学で記述式の古文が出題される大学では、うるしの授業が光ります。特にうるしが東京大学出身ということもあって、かなり東大に執着心があるようです。またうるしの考え方では「浪人」は全く恥ではない、ようです。「夢に向かって努力を続ける人のどこに恥があるのか。浪人、結構じゃないですか」という考え方です。また、天空の城ラピュタのムスカ大佐を、「あいつ絶対文一出身だ」と言って割と好んでいたりしますし、ナルシストの一面を見せる場面も多いですが、必死になっている生徒のことが大好きであるということはよく伝わってきました。その証拠に、受験期間際になると、うるしの完全ボランティアで「東大国語予想問題」を全て自作で作ってその解答・解説までやってくれるというサービスまでやっていました。当時からかなり規制がかかっていたようで、今も続けているかどうかわかりませんが、そういうことをするくらい真剣だという意思が伝わってきました。代ゼミでなければもっと有名になっているべき講師だと思ってます。1度授業を体験してみると良いかもしれません。

どういう人には向かないか?

 ナルシストは嫌い、授業スタイルを押し付けてくるのは嫌、という方には向かないと思います。また、それが良い・悪いは別にしても自分なりの板書術を持っていて、それを汚されなくたいとか「板書はとにかく綺麗に書くことが全てだ」という信念を曲げられない人には向かないでしょう。うるしは自分のスタイル通りに授業をしていない生徒を発見すると、かなり不機嫌になります。一度、そういう場面に遭遇したことがあって、授業のあとその生徒に向かって「授業中に板書も何もしないならもう授業を受けないでくれ」と言っているのを見たことがあります。その生徒は授業の邪魔をしていたわけではないのですが、うるしの授業を聞いているだけで、うるしのいうような授業スタイルを取っていなかったようです。そういうのは、許しがたい行為なのかもしれません。

講師 北澤 紘一

 自身が東大2次試験受験前に高価な「栄養ドリンク」を飲んでしまったせいで、数学のテスト中にお腹が痛くなり、そのせいで合格点に届かなかったという苦い過去をもつ「漢文」専門の講師です。

 特別派手なところはありませんが、一語一語丁寧に漢文の文章を解きほぐしていく授業を展開します。「うるし」とは違いナルシストの面を全く持たず、いたって穏やかな授業という感じです。しかし、穏やかすぎるということもあって、眠りについてしまう生徒がいるのもまた真実、、、。

私がもっとも気に入っているのは「ポヨポヨ」。生徒たちが眠くなると、北澤先生は、自分の髪型をいじってこんなことを言い出します。

後頭部をゆっくり触ると、ポヨポヨした感じになっているんですよ。

その言い方が格別で、そのために北澤先生の授業をとっていたのかもしれません。

どういう人向け?

学校の授業で「漢文」をやっているけど、全くついていけない、という方にはおすすめです。また癖の強い先生の授業は苦手、授業スタイルを押し付けられるのも嫌、という方は北澤先生はベストマッチングではないでしょうか。

どういう人には向かないか?

まず、受験で漢文をいらないという人には無縁の先生でしょう。また、授業中に何か刺激を求める、派手な授業展開を好むという方には向かないでしょう。

講師 船口 明

 「最強の現代文」でおなじみの船口先生。とにかくおしゃべりが好きで、授業中の雑談のセンスはピカイチ。当時の本部タワーでは「最強の雑談」と言われていました。船口先生の魅力の一つはその人柄。授業中は朗らかな表情で解説をしながら、時折学校の先生顔負けの雑談(必ずオチがついていて、ほぼ確実に爆笑する)が披露され、そのまま授業に戻っていく。

 授業スタイルは、いたってシンプルで、現代文の文章を予習してもらい授業でそれを解説するというもの。船口先生といえば、「事態」「行動」「心理」で心情を理解していくというメソッドです。小説の中では、必ず何かが起こり(事態)、登場人物がそれに対して「行動」をし、その中から「心理」が見えてくるというもの。すなわち、目に見えない心理を捉えるためには目に見える「事態」と「行動」から正しく推測せよ、というもの。非常に客観的に登場人物の心理を捉える方法で、テレビでも紹介されたことがあります。

 また、私の中で大きな革命があったのは評論文における、ある典型的な問題の解き方です。船口先生はこういう例を出して説明していました。

彼女はそのラーメンが好きだ。
という文章があって、次のような問題があったとする。

1.  彼女がそのラーメンを好きなのはなぜか。
2.  彼女がそのラーメンを好きだといえるのはなぜか。

1, 2の違いの答え方の違いを説明できますか? 1の解答は、「そのラーメンに含まれているスープの味、麺のコシが気に入っているから」といったような答えになるが、2の解答はズバリ、「彼女はそのラーメンが好きだから」だ。彼女はそのラーメンが好きだから、そのラーメンを好きだといえるわけだ。

こういう風に「(傍線部)だといえるのはなぜか」という問題の解答は、「(傍線部)だから」とまず置き換えて、そのあとで(傍線部)の説明を言い換えることで解答になる。すなわち、これは単なる言い換えの問題なんだ。

「(傍線部)だといえるのはなぜか」というのは、東大でも京大でもよく出題される形式の一つですが、なかなか答えづらい問題に見えます。しかし、このように考えると単なる言い換えの問題に置き換えることができます。この発想の転換で、私の現代文に対する解答姿勢は劇的に変化したといえるかもしれません。

どういう人向けか?

 楽しく、論理的に現代文を学びたいという方はぜひ、おすすめ。特に、現代文の記述の仕方でいつも迷う、とか小説でいつも心情説明を間違える、という方は船口先生の授業で革命を味わえるかもしれません。今では、東進の林先生が有名になっていますが、講師としての実力だけを見るなら、船口先生は全く劣っていないと思います。

どういう人に向かないか?

 雑談はいらないから、とにかく授業をしてほしいというストイックな方には向かないでしょう。

数学

講師 岡本 寛

 代ゼミの数学講師の中では、珍しく声のトーンが落ち着いていて、いつまでも聞いていられるような穏やかなボイスです。代ゼミ講師の中には、興奮状態になると、いきなりトーンの上がる先生もいますが、岡本先生はいたって静かな授業を展開します。いわゆる革命的なメソッドを持っているわけではなく、教科書(テキスト)に載っていることを自分の解釈を混ぜながら、淡々と説明していく感じです。私がもっとも印象に残っているのは、確率漸化式に関する解き方です。当ブログでも岡本先生の教え方に基づいて確率漸化式をテーマにした記事を書いています。

確率漸化式なんてのはどれも、「初めの1歩」か「最後の1歩」のどちらかで場合わけでできるんだよ。この問題がどっちの方法で解けるのかを考えれば、確率漸化式は全然難しい問題じゃない。

どういう人向けか?

 穏やかな父さんに数学を教えてもらうような感覚で数学を習得したい人には向いていると思います。

どういう人に向かないか?

最近、Youtubeにもよく現れるようになったように、すごい裏技、革命的な計算方法などを望んでいる人には向かないと思います。

講師 荻野 鴨也

 言わずとしれた「接点 t」の先生です。これは「代ゼミ勧誘動画」で本人が自分のことを「接点tです」と公言していることからも本人公認のあだ名です。なぜ、こんなあだ名がついているかということは、youtubeで「代ゼミ 荻野 接点t」と検索すればすぐにわかります。

 荻野先生については多くを語る必要はないでしょう。なぜなら、先ほど言ったように「youtube」を見れば自ずとどんな人物がわかりますし、数多くの名言を残してもいます。その中でも私が気に入っているのは、次の発言です。

所詮、手際よく解けるように作られた入試問題という箱庭の中でしか、生きていけない解法なんだ。

私のYoutubeチャンネル名である「競技数学という箱庭で生きる小人」は荻野先生のこの発言に影響されています。また、荻野先生の語ったエピソードで「秋山仁」さんとの思い出があります。東京理科大学を卒業した荻野先生は、世の中に「積分をする会社がない」ことに愕然とし予備校業界に入ります。それは代ゼミではなく、駿台でした。そこで出会ったのがかの有名な秋山仁さんであったといいます。荻野先生は新人の頃随分お世話になったようです。ある時、荻野先生に転機が訪れて、駿台をやめて代ゼミに移ることになりました。その時、秋山仁さんに言われたのが次の一言で、それが「まるで自分が認められたような感覚がして嬉しかった」と語っていました。

これからはライバルだな。

 荻野先生の指導方法としては、数学の呪文を通して解法を覚えるという方法があります。自身がドラクエ好きということもあって、「天空への数学」などといったタイトルで春期講習・夏期講習の講座を開講していました。数学の呪文というのは例えば、次のようなものです。

\(f, g, g^{\prime}\)、いつもやるのは緑の積分

頭とケツ見て、因数分解

接点tより始めよ

とにかく語呂がよくて、本人の授業スタイルとも合間って、頭に残りやすい呪文です。

また、本人の成功体験とも合間って、理系における大学入試の合格の核心部分は「微分・積分」になるという哲学があります。そのため、授業でも「微分・積分」の計算にはこだわりがあり、USA方式の積分法、瞬間部分積分法など計算を簡単にする公式を色々提示してくれるのも特徴です。

どういう人向けか?

派手なパフォーマンス、刺激を味わい方にはおすすめ。というのは冗談(でもない)ですが、微分・積分に関して不安がある、という方には荻野先生の授業で改善できるかもしれません。

どういう人に向いていないか?

良くも悪くも学習スタイルを強要してくる先生なので、それについていけない、または「自分のスタイルを保ちつつ荻野先生のスタイルにも合わせる」ということが苦手な人には厳しいかもしれません。

講師 西岡 康夫

 荻野先生と並んで秋山仁さんの弟子的存在。しかし、荻野先生よりもその哲学を色濃く継承しており、「戦略的アプローチ」を軸とした問題解法を提唱しています。本人は東京大学を卒業後、官僚として働いていたが性に合わず、予備校に転身したという過去を持っています。現在では代ゼミの講師を引退しています。

 戦略的アプローチとは、1. 定性・定量 2. 分析と総合 3. 帰納と演繹という3つの柱を軸にしています。ここでは、西岡先生の授業を直で学んだ私の解釈で、これらのアプローチの説明を試みます。

[1] 定性・定量
  定性的な考えと定量的な考えというのは、「研究」をする上で非常に重要な考え方です。例えば、日本の人口とアメリカの人口を考えたとき、日本の人口の方がアメリカの人口よりも少ないという風に考えるのが定性的な思考、日本の人口の方がアメリカの人口より1億人少ないという風に考えるのが定量的な思考です。これを数学の問題に適用するならば、例えば「楕円」の式があります。
 楕円というのは、定性的に見れば「2定点からの距離の和が等しい点の集合が描く軌跡」と表現できます。そして、この定性的な見方を用いて次のように定量的な洞察ができます。すなわち、実数\(a, b\)を用いて楕円の式は
$$\frac{a^{2}}{x^{2}}+\frac{b}{y^{2}} = 1$$
と表せるということです。これが定量化というものです。今の例は、「定性」→「定量」という流れです。もちろん、これは逆に利用することもできます。
 例えば、\(n^{3}-7n+9\)が素数になる整数\(n\)を全て求めよ(京都大学理系前期2018年第2問)。このように定量に現れた式を
$$n^{3}-7n+9 = n^{3}-n-6n+9 = (n-1)n(n+1) – 6n +9$$
のように変形すれば、これは「3の倍数」であることが定性的に表現できます。このように定性的に考えれば、素数で3の倍数のものは”3″しか存在しないことになり、この問題は解けることになるわけです。今のが「定量」→「定性」への流れです。このように、未知の問題に遭遇した時、「定性」と「定量」の相補的な考え方をうまく利用することは一つの道しるべになるというのが、戦略的アプローチの一つです。

[2] 分析と総合

 分析というのは、ここでは「分割すること」であり総合は「統合すること」と考えていきます。「分析」→「総合」の例として西岡先生がよくテキストに取り上げるのは、多角形の面積を求める時は、それを複数の三角形に分割して(分析)、三角形の面積を統合する(総合)という手法です。デカルトが語った名言に、「困難は分割せよ」という言葉があります。分析というのはまさにこの言葉に根付いていることになるわけです。ちなみに、西岡先生はこれをもじって

分割しすぎると困難になる

ということを言ってます。分析しすぎるというのは問題であるということですね。
 また、この分析→総合は、「微分積分」の要となる概念と言ってもいいです。特に体積などの求積問題では「微小体積」を求めそれを「統合する」というまさに分析→統合の流れにそって計算していることがわかると思います。

[3] 帰納と演繹

帰納と演繹はこの世の中の「科学」をここまで発展せしめた偉大な考え方です。それを高校数学にも適用してやろうというのが西岡先生の試みです。帰納とは「複数の具体例から1つの法則を推測する」ことであり、演繹とは「1つの法則から普遍的に成り立つことを導くこと」をさします。高校数学では「帰納」→「演繹」への流れが自然にできると、複雑に見えていた問題が一瞬にして簡単な問題に変わるということがよくあります。高校数学でよく現れるのは、例えば漸化式の一般項の推定問題です。複数の\(n\)の値に関して実験を行いその一般項を推測(帰納)した後、その一般項を数学的帰納法で証明する(演繹)というタイプの解き方ですね。西岡先生はこのことを述べた後で、「数学的帰納法」は「帰納」じゃなくて「演繹」だとおっしゃっていました。確かにその通りだと思います。

このような3つの戦略的アプローチを組み合わせれば、未知の問題でも解ききれるというのが西岡先生の哲学です。もはや代ゼミでは授業をしていないようなので、「どういう人向け(向けでない)か」という項は省略します。しかし、先生の著書でこの考え方を突き詰めることはできますので、興味がある方は購読を勧めます。しかもこの考え方は学問全般に応用できることであり、研究者であれば確実に身につけておかなければならない原則であるとも言えるでしょう。

講師 藤田 健司

 「語りかけてくるような授業」というのが第一印象の藤田先生。「〜なんだよ!」とか「じゃあやってみるから!」などと言ったように複数を相手にしているはずなのに、1対1で語りかけてもらっているような授業です。

 一つの問題に対してテーマを切り取り、そのテーマの解法をまず一般的に書き出してから、問題に応じてどのように解くべきかを考察して解説を始めます。例えば、不等式を証明する問題が登場した時は、はじめに不等式の解き方を並べます。

  1. 差の式を作って変形して符号を調べる
  2. 関数で捉える
  3. 特別な不等式の活用

そのようにした後で、その問題がどのように解けるかを考える、または複数の方法がある場合はそれらを提示するといった形です。藤田先生の授業では、1人で勉強していると「なおざり」にしてしまうようなことを正しく諭してくれるという印象があります。例えば、証明問題において、証明する事柄を別の式に変形したとき、その変形した式を「番号や記号をつけて宣言する」ということや「途中省略の\(cdots\)を使った時は個数を書くこと」、「グラフをイメージする時は、縦軸との交点をcheckする癖をつけること」など、他にも、ついないがしろにしてしまうようなことを正確に教えてくれます。

また、藤田先生はその著書で、次のように述べています。

数学的能力は「その勉強量」に比例するのではなく「自分の頭で考えた時間の量」に比例する

この発言に関しては全く同感です。

どういう人向けか?

独学の勉強だけでは、正しい方法で数学の問題を解いているのか自信がないという人には是非、藤田先生の教えを学んでみて欲しいと思います。

どういう人に向かないか?

すでに基本的な数学の知識・知恵は体得していて、より高度な問題への取り組み方、計算速度のアップや裏技を知りたいという人には向いていないと思います。

講師 山本 俊郎

 その風貌や授業中の衣服から「浮浪者」という失礼な言い方が2チャンネルに横行しているが、とにかく板書が綺麗な先生。また、大学以降の教科書で「我々が解くべき問題は〜」と書いてあるのをもじって、「俺たちがしなければいけないのは〜」という感じで解説していくのも特徴。

 語り方がうまく、重要なポイントそうでないポイントでの「抑揚の付け方」が秀逸で鮮やかな解法で解き切って見せた時は、思わず拍手を送りたくなるような気持ちにさせられます。特別、新しい知識を教えているわけではないのですが、先生の講義を受けていると、知らず知らずのうちに複雑だった問題、わからなかった問題が解けていたという感覚になります。

 どうでもいいのですが、山本先生の比喩でもっとも印象に残っていることがあります。数学の軌跡と領域の問題では、たまに、ある点の軌跡を求めるために、別の点の軌跡をたどることが重要なことがあります。その問題の解説をしているときこんなことを言っていました。

ある記者の話だけど、こんなエピソードがある。小泉首相の動きを予測するためには、小泉さん本人を追うのではなく、その右腕だった麻生さんの動きを読むことで予測できたらしい。俺たちも、この点の軌跡を求めるためには、こっちの点の軌跡を読むことが大事だ。

どういう人向けか?

 数学で全然わからない単元がある。学校の先生に聞いてもよくわからない。そういう単元をお持ちの学生がいたら、山本先生の単科の授業をとってみることをお勧めします。今までに教えてもらったことのない方法で、きっとその単元をもう一度見つめ直すことができるようになります。

どういう人に向かないか?

 山本先生の強みは「わからない単元をわかるようにする」というところにあると思いますので、東大・京大・旧帝大などの発展的な問題をバリバリ解いていきたいという人には向いていないと思います。

英語

講師 富田 一彦

 東京大学文科三類出身の英語講師。「架空の国ジャパン」という言葉を武器に、世の中の隠れた真実を暴露する。「論理的思考」によって入試英語を解き明かす様は見ていて圧巻。

 当時は西きょうじと並んで、代ゼミの二大巨頭として代ゼミに君臨していた。「所詮君たちは〜」や「君たちみたいなタコは〜」などと受講生を小馬鹿にして授業を進めていくスタイルも特徴で、別に悪気はないのだが、気に触る人もいるかもしれない。本人は、高校時代ラーメン屋で働いており、その大将の娘に「自分が東大生」だと偽って家庭教師をしていたそう。それで、いつか「学生証を見せろ」と言われるのに備えて東大に受験し、合格したという過去をもつらしい。授業中にたまに飛び出す名言も秀逸。

人間が生まれるって、ものすごい確率なんだぜ。受精卵を作る精子はたった一つ。それまでにどのくらいの精子が君のお父さんによって犠牲になったと思う? 君たちはすでに何億・何兆もの倍率を勝ち抜いてきたんだ

どういう人向けか?

東大英語がどれだけ論理的に作られていて、それをいかに論理的に解くかということを見せてもらい人には是非とも富田先生の東大英語の受講をお勧めしたい。

どういう人向けでないか?

途中でも触れたように、浪人生を馬鹿にするような発言をすることがあります。それを冗談だと思って割り切れない人にはあまりお勧めできません。

講師 西 きょうじ

 2,3年前に代ゼミを去り、東進ゼミナールに転向した英語講師。「ポレポレ」を筆頭とした英語テキストや、「踊らされるな自ら踊れ」「さよなら自己責任」などの名著を世に送り出している知の魔神です。最近では、youtubeで「名著に入り込む」という放送をしています。

 本人曰く、小学生の頃から反エリート志向の持ち主で、中学進学の時は「灘」を嫌い地元の進学校へ、大学進学の時は「東大」を忌避し「京大」に進学。俳優を目指して修行していたが、途中で予備校講師に転身したそうです。

 西先生は今では東進のビデオ授業を行なっていますが、やはり西先生の授業スタイルは対面でこそ輝くと思います。対面授業の際には、前列に座っている人たちに向かって、質問を投げかけることが多いです。その質問はテキストの問題の解答であったり、自分で黒板に書き出した英語の日本語訳であることが多く、それに対する見当違いの解答に対して鋭いツッコミで対応するというのが特徴です。例えば、ある単語の文中における品詞を生徒に尋ね、生徒の答えが不正解の時は

お前が瀕死だ

などと言ったり。西先生の面白いところは、逆にどんな質問も受け入れるということ。それが英語に関係あることでも、そうでなくても、ある程度意味のあることであれば一生懸命考えて、ある一定のおちをつけてくれる。ある時などは

草は生命か?

という生徒の質問にも答えてくれる優しさを見せたことがあります。

どういう人向けか?

 英語の文法をその背後に隠れた知識からとことん理解したいという人にはお勧め。

どういう人向けではないか?

 英語が初歩からわからないという人にとっては、ついていけない授業になるかも。初歩の習得にはまず「ポレポレ」がオススメ。

物理

講師 漆原 晃

 東京大学ボディビルダー部出身の物理講師。授業中には、ボディビルダーの極意を教えてくれることもある、物理屋には珍しく、非常に気さくなタイプ。難関大学の入試問題に、近似の問題が現れた時は「みんな、キントレやってる? こっちじゃないよ(ダンベルを持ち上げるそぶり)。近トレの方だよ」というのが鉄板ネタ。また、テキストに載っているように大学院では「酸化物巨大磁気抵抗効果」によって第4回日本物理学会論文賞を授与されている。論文のタイトルは”Giant Magnetotransport Phenomena in Filling-Controlled Kondo Lattice System: La1-x Srx MnO3“であり、J. Phys. Soc. Jpn. 63 (1994) 3931-3935に掲載されている。漆原先生の名前は実はペンネームではないかという噂もあるが、論文誌に「漆原晃」とあることから本名であることが推察される。

 本人の哲学は「1つの体系によって高校物理は理解される」というもので、授業中でもユニークなキャラクターを使いながら、物理現象をごまかしなく理解させてくれる。また一見複雑に見える、生徒が苦手とする単元についても非常に解きやすくするような工夫をしてくれる。特に、本人が大学院でも取り組んでいた電磁気学の範囲は非常にわかりやすい。

例えば、コンデンサー・コイル回路の解法。私の一番のお気に入りは

コイルを見たら、ラブ(LOVE)・アンド・ピース(PEACE)

この発言の意味するところは、回路に電流I(愛つまりラブ)と電圧V(ピースマーク)を書き込めというもの。単純なことだが、この少しの工夫で回路の問題を鮮やかに解く方法を伝授してくれる。著書「極める物理」でも、複雑な物理問題(動く三角台を動く物体の運動)の説明がうまい。何より、本人が気さくなこともあって、わからないところを気軽に質問できるのも大きい。

また、大学院の研究ネタも時々披露してくれる。私のお気に入りは、「友人のプロポーズ」である。漆原先生の研究室では、「超高音高圧」の環境を作る機械を所有しており、隙あらば原料を持ち込むことで「宝石」を作ることができたらしい。漆原先生の友人はこの機械で宝石を作ることを考え、それをプロポーズに使おうとした。実際、宝石を作るためには幾日もかかるらしく、時間が足りなかったのか、実際に作ってみたものを彼女に渡そうとしたところ、まるで茶色い「う○ち」のようなものになってしまったということだ。

どういう人向けか?

物理現象を高校で習う知識を基に、解法のテクニックを上乗せしながら理解していきたいという人に向いていると思います。

どういう人向けではないか?

今、流行りの「微分積分で高校物理を理解する」ことを目指している生徒には全く向いていません。その場合は東進ゼミナールの某先生にお世話になるのが良いでしょう。

化学

講師 亀田 和久

ツッコミどころ満載の代ゼミの名物講師の1人。服装は色とりどりの服をきており、紫のスーツで決めている荻野先生と同類として評されることが多い。まるでナポレオンの服装かと思わされるような時もあり、とにかく服装のセンスはよくわからない。生徒に無印製品の36色の色鉛筆と6色のカラーペン、指定のA4の落書き帳を「強要」し、その授業は基本的に大部屋でなされるため、教室はまるで「宗教の集会」のような雰囲気を持っている。私もその集会には必ず「36色の色鉛筆」だけは持って参加した。これがないと、非常に居心地が悪い。キリスト教におけるバイブルのようなものだった。

ただし、高校化学の内容を考えると、落書き帳と36色の色鉛筆というのは実に納得がいく工夫であると思う。まず、A4の落書き帳に関しては、区切りがないため、全面を一気に使うことができる。これは化学の重要事項を一手にまとめるときに非常にやくに立っていた。また36色の色鉛筆は多様な元素の色、またイオンの色を覚えなければならない化学を理解するのに、非常に重要な役割を果たす。例えば塩素が現れれば「黄緑色」で塗り、\(Cu^{2+}\)が現れれば青色で塗るというような格好である。36色は、「青白色」などの細かい色の違いにも対応することができるという点で選ばれている。

youtubeでも見られるが山手線の下りは面白い。

化学はまずモル! 電車はまず山手線! 大阪にいきたい? じゃあまず山手線、そのあとぶぁ〜って(新幹線のつもり)。……最初から行けよ。

あとはピアノのレッスンの話も教訓めいていて面白い。本人はピアノを趣味としていて、独学でピアノを練習していた。あるとき、有名なピアノの先生がいて、その人に指南を仰ごうとしたとき、「まず腕前を見せて」と言われ、バカにされてはならないと思って本気でピアノを弾いた。すると、「……これ、レッスンの必要ある?」と言われて断られてしまった。そして、次に指南を受けようとする先生には、わざとめっちゃ下手に弾いたという逸話がある。

どういう人向けか?

洗脳されるのが好きな人(というのはたまにいる)にとっては非常に心地よい授業であり、そして実際まともなことを教えているわけなので、化学の知識も身につくでしょう。

どういう人向けではないか?

前述したように授業は宗教集会のような雰囲気(あくまで雰囲気)を持っているので、そういう環境が嫌いな人には向いていません。

まとめ

 代々木ゼミナールは、「通信サテライト」を売りにした営業を展開しているが、やはりその魅力は「対面授業」にあると思います。特に名物講師と呼ばれる先生ほど、Youtubeの世界では到底見つけることのできない、はちゃめちゃな講師にあふれています。いってみれば、エガちゃんの雰囲気を教育系youtuberが受け継いで授業をしている感じ。可能な限り、講師の側で勉強をするというのが一番面白く、また知識・知恵が身につくと思います。特に当時の本部タワーはまるで「講師」という数々のアトラクションがあって、それを日々楽しみながら授業を受けられる、というような感覚でした。文系であった私も、1年間代々木ゼミナールの本部タワーで理系を学んだあと、某国公立大学に進学し、今もそこで研究活動をしている次第です。この記事が皆さんの1年を選ぶ少しの指標になってくれれば幸いです。

ここまで読んでいただいて、どうもありがとうございます。

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