整数問題に関する考察
まみ、整数の問題教えてよ。
いいけど、どんな問題?
問題っていうかさぁ、入試問題の整数関係の問題って、とらえどころがないっていうか、つかみどころがないじゃん。整数に関する公式を使えばいいってわけじゃないし、典型的な解き方ってないよね。物理とは違うよ。
ようこちゃん。整数問題の面白さを知らないんだねぇ。もったいない! それに、整数問題には立派な、典型的な枠組みがあるんだよ。だって、所詮入試に出てくるような問題なんだから。確かに、入試問題を超えたら、いまだに解かれていないような問題がたくさんあるけどさ。
え〜、じゃあ、それ教えてよ。そんな難しい整数問題なんて、興味ないし。
整数の問題にはさぁ、独特の「数学的キーワード」があるんだよ。そのキーワードと解法をうまく結びつけてやれば、少なくともつかみどころは、見つかると思うよ。それがわからないと、掴みのようのない、雲みたいな問題だけどね。ちょっと図で書いてみよっか。
黄色が整数問題のキーワード。青色がいろんな問題に対応できる解法、紫色が決まった問題に対して強力な解法だよ。
紫の位置関係は何か意味があるの?
あたしの経験からすると、キーワードに近い紫色の解法ほど役に立つかな。この関係から、キーワードをみて、ある程度どんな解法を選ぶかをイメージできるかも。あとは、問題を解きながら、整数問題の解き方を調べていこうよ。
京大数学に現れる整数問題
2007年甲 第3問 ”4人”の共犯者を捕まえよ!
\(a+b+c+d=0,\ ad-bc+p = 0,\ a\geq b\geq c\geq d\)
を満たすとき、\(a, b, c, d\)を\(p\)を用いて表せ。
キーワードは何でしょう?
素数、だね。あとは、整数の組み合わせ、というところかな。
うん。素数の問題は整数の組み合わせを決める時に、よく出てくるよ。何でかっていうと、素数って条件をつけるだけで、整数の組み合わせを劇的に絞り込むことができるからね。問題を作りやすいんだ。
じゃあ、目指すのは因数分解?
そうだね。因数分解したいけど、どれもできそうじゃないね。できそうなものがなかったら、作ればいいんじゃない?
最初の二つの方程式を使えばできそうだけど、、、でも、どの文字を消すのがいいの?
それがポイントだよ! まずさ、この問題を見て、どの文字が最初に決定できると思う?
え? そんなのわかるの?
だってさ、一度に全ての文字が決まるような方程式なんて、滅多にないんだから、一つずつ求めていくはずでしょ。だったら、最初に決定できる文字があるはずだよね。でも、\(a, b, c, d\)って、平等じゃないよね。
う〜ん。平等じゃないっていうのは、対称じゃないってこと?
そうそう。どんな問題でもさ、情報量が一番多いものから決定されていくよね。例えば、殺人事件で、複数の犯人がいたとしても、最初に捕まるのはもっとも情報を残してしまった人でしょ。そこから芋づる式に犯人が見つかっていくことがあるよね。数学も同じでさ、情報をたくさん残している文字からせめていきたいんだよ。じゃあ、情報量がもっとも多いのはどの文字?
え〜と、\(b\)と\(c\)かな。\(b, c\)はどっちも同じくらいの情報があると思うな。
あたしもそう思うよ。だって、すべての文字は方程式で1つずつ情報を残しているけど、最後の不等式では、\(b, c\)は2つの情報を残してるもんね。だからさ、\(b, c\)のどっちかを先に攻めるのがいいんだ。
でも、\(b, c\)のどっち?
それはどっちでもいいんだよ。だって、\(b ,c\)は同じ情報量を持っているんだから、どっちから攻めたって同じこと。じゃあ、\(b\)に狙いを定めるよ。
なら、\(b\)は消去しないで残しておくってことね。あと、3つ文字があるけど。もしかして、\(a, d\)って、どっちを代入しても同じことかな。だって、\(a, d\)って対称な形してるし。
ようこちゃん、鋭い。そうだよ。\(a, d\)のどっちを代入しても、形は違うけど、同じ情報しかくれないね。だから、どっちかでいいんだ。二番目の方程式を見てさ、\(ad-bc\)という形があるから、\(a, d\)のどちらか、それと、\(b, c\)のどちらかを代入したら、違う情報が手に入りそうな気がするよね。だから今回は、\(a, c\)を代入してみることにしよう。
2. \((a+b)(b+d) = -p\) (\(c = -a-b-d\)を代入した式)
これで、目的の式ができたね。右辺が素数というのが超強力な条件だよ。これが素数じゃなかったら、この問題、解けないからね。
なるほど、1の式と大小関係から\(b+d = p, c+d=1\)か、\(b+d = -1, c+d=-p\)になり、2の式から、\(a+b = 1, b+d=-p\)か、\(a+b = p, b+d=-1\)がわかるんだね。それで、1の式から出たものと2の式から出たものが矛盾しないようにするためには、\(b+d = -1\)しかないってことだね! これがわかると、
\(c+d = -p, a+b = p\)ってことまでわかっちゃう。
ね、面白いでしょ。今出てきた式をまとめよう。
2. \(c+d = -p\)
3. \(a+b = p\)
ようこちゃん、どの文字から攻めるか覚えてる?
忘れてないよ。\(b\)でしょ。じゃあ、3の式を使って\(b\)に関する不等式を作ってみる? そうすると、
$$b\leq\frac{p}{2}$$
そうだよね。じゃあ、次は1, 2を使ってみると
$$b-c = -1+p$$
になるけど、ここからどうしようか?
\(b\)を残したいんだから、\(c\)を消したいよね。方程式はめいっぱい使ってきたから、あとは不等式をつかうのかな。例えば、
$$c = b+1-p$$
として、\(c\leq d\)に代入してみよっかな。
いいね、いいね、そうすると?
$$b-p+1\leq d$$
が出てくるよ。で、今度は\(d\)が邪魔だから、\(b+d = -1\)を使って、、、
$$b\geq \frac{p}{2}-1$$
が出てくる。あれ、これって。
うんうん。\(b\)に関する不等式をまとめると、こうだよね。
これを満たす整数\(b\)の値なんて、一つしかないでしょ?
え? あ、そうか。pは3以上の素数で、奇数なんだから
$$b = \frac{p-1}{2}$$
しかないんだ。ああ、そうすると、
$$b+d = -1$$
$$c+d = -p$$
$$a+b = p$$
なんだから、次々にわかっちゃうね!
ね? 芋づる式に全部わかっちゃうでしょ。
おお、結構面白いね。でも、解ければ、ね。
でも、閃きなんていらなかったでしょ。情報量が多いものから順にせめていっただけだもん。入試問題なんだから、誰でも解けるように作られているんだよ。整数の問題は、頭を鍛えるのに、とってもいいよ!
よし、じゃあ、次いこ!
2016年 第2問 素数から作られる素数”たち”
$$p^{q}+q^{p}$$
と表される素数をすべて求めよ。
はい、来たよ、キーワード、素数!
今度は、何だろう? 因数分解じゃないよね。
因数分解じゃないときには、素数キーワードは、「整数の組」「存在証明」「あまり」なんかと繋がりが強いんだよ。特に、「素数」と「「整数の組」と「あまり」の結びつきは重要だよ。
? よくわからないなぁ。
すべての整数の組を探す時には、整数を「あまり」で分類することが多いんだ。例えば、すべての整数を\(n\)を整数として\(3n, 3n+1, 3n+2\)と置く、とかね。そうやっておいたあと、最終的に「素数」になるってことを使って絞り込んでいくんだよ。これはもう鉄板だね。
う〜ん、そうなんだね。でも因数分解できないと、ちょっと手がつけられないなぁ。何から始めればいいんだろう。
ようこちゃん! 整数の問題は、微分・積分の問題と違って「論理的な計算」よりも「論理的な言葉」で攻めたほうがいいんだよ。
論理的な言葉? どうやって?
誰でもすぐに考えついて、しかも確実な事実から明らかにするんだよ。数式をいじらないで、その数式からわかることを言葉にするんだ。
まず、pとqは両方とも偶数じゃないってこととか?
そうだよ! そういうことから始めるんだ。他には?
そうだねぇ、両方とも奇数じゃないな。
そうだよ。それ、すごい気づきだよ。
な〜んか、バカにしてない?
そ、そんなことないよ! だって、素数は……。
あ、ごめん、ちょっと待った。そっか、わかった。素数で偶数なものは2しかなくて、両方とも奇数でも偶数でもないってことは、どっちか一方が絶対2じゃなきゃいけないんだ。
そうなんだよ。だから、\(p=2\)と書くよ。
$$2^{q}+q^{2}$$
そうなると、あとは\(q\)が何かを考えればいいんだよね。素数がらみで肝になるのは、”3″だよ。
何で?
ほどほどにパターンが作れるからかな。2だと簡単すぎるし、5だとパターンが多すぎる。これが「入試問題」だってことを思い出すんだ。すべての素数を求めるような問題や、素数にならないことを証明する問題では、「3の倍数を作ってしまう」というのが鍵なんだ。
う〜んと、つまり、すべての整数を
$$3n, 3n+1, 3n+2$$
みたいに分けて、\(2^{q}+q^{2}\)が3の倍数になることを言えばいいわけ?
そっ! やってみよっか。
ん〜でも\(2^{q}\)を3で割った時のあまりはいくつだろう?
ようこちゃんに、もう一つのテクニックを教えちゃおう!
それは、「実験」。物理だけじゃなくって、数学でも実験すると有効なんだよ。\(q\)にいろんな値を入れて、試してみなよ。
実験かぁ。あんまり考えたことなかったよ。やってみよ。
\(2^{1}\)は3で割ると、2余る。
\(2^{2}\)は3で割ると、1余る。
\(2^{3}\)は3で割ると、2余る。
\(2^{4}\)は3で割ると、1余る。
\(2^{5}\)は3で割ると、2余る。
\(2^{6}\)は3で割ると、1余る。
へ〜、なんか繰り返しになってるんだ。
証明できる? ようこちゃん。
ちょっと待ってね。あ、簡単だよ。だって3で割って2余るものは\(3n+2\)ってかけて、これを2倍すると\(6n+4 = 3(2b+1)+1\)で1余る。3で割って1余るものは、\(3n+1\)って書けて、これを2倍すると\(3(2n)+2\)で2余る。だから繰り返しになるんだ。それで、\(q=1\)の時に2余るんだから、\(q\)が奇数だったら、絶対あまりは2だね。
その通り! じゃあ、最後までいくかな?
いつも通り、図にまとめてみよっかな。
うん。\(2^{q}+q^{2}\)は3より大きいから、素数になりうるのは、\(q\)が3の倍数になるときだけだね。\(q\)は素数なんだから、それって、\(q=3\)しかありえないね。その時は、確かに17になって、素数だ!
うん、完璧! だから、答えは17だね。どう? 面白くない? 整数。
確かに、推理みたいで、ちょっと面白いね。数学的な証拠を突きつけて、犯人を追い込んでいく、みないな感じ。
うん。なんか、そういう感じがするよね。
でもさ、素数がらみで”3″がポイントってホント? この問題だけじゃないの?
あ〜、疑ってるな。じゃあ、これ見てよ!
2018年 第2問 ”3″が重要なんだってば!
この数式、因数分解できそうだけど、できないんだよね〜。だから、素数、整数の組、存在証明、あまりっていうつながりで、やっぱり整数をあまりで分類して、素数性から、候補を限定していくって方針だね。
で、3が鍵なのよね?
そうだよ。京大の整数問題に限らないけど、特に、京大は3が鍵。
でも今回は\(3n, 3n+1, 3n+2\)を代入して計算って面倒だな。ちょっと工夫して\(3n, 3n+1, 3n-1\)としても面倒だなぁ。まぁでもやるか。
合同法っていう武器もあるけど、これくらいだったら計算してもいいじゃん。
は〜い。じゃあ、\(n=3n\)の時は、
$$27n^{3}-21n+9$$
で、3の倍数だね。\(n=3n+1\)の時は
$$27n^{3}+27n^{2}-12n+3$$
で、3の倍数だね。\(n=3n-1\)の時は
$$27n^{3}-27n^{2}-12n+15$$
で、3の倍数だね、、、って、すご!
ほらね、また”3″が当たりだったでしょ。ちなみに、こんな変形
$$n^{3}-n-6n+9 = (n-1)n(n+1)-6n+9$$
思いついたら、ようこちゃん、褒めてくれる?
あ、ずる〜い。計算する前にそれ見せてよ。連続する3整数の積は6の倍数なんだから、絶対3の倍数になるじゃん!
へへっ。とっておきの変形。まぁ、それはそうと、解答を続けようよ。
え? まだやるの? 3の倍数で素数なのは3しかないんだから
$$n^{3}-7n+9 = 3$$
を解けばいいだけよね?
一応さ、最後までやろうよ!
そうだね。じゃあ、これを因数分解して
$$(n-1)(n+3)(n-2) = 0$$
になるから、答えは、\(n=1, 2, -3\)だね。
せいか〜い。どう? 信じてくれた?
う〜ん。でもこれって両方とも最近の問題でしょ。昔は違うんじゃない?
むむ。今日は、疑り深いね、ようこちゃん。じゃあ、もう一つやる?
2006年前期 第4問 ”3″が大事。大事なことなので3問目。
まず、”2″から攻めるけど、両方奇数だったら2の倍数にならないから絞り込めないね。
あ、じゃあ、やっぱり”3″なのか!
そうなんだよ! やっぱり”3″なんだよ! ミスタースリー!
……ようこです。ミスターじゃないし。
ようこちゃん、漫画のキャラクターだよ。
あ、そうなんだ。え〜と、問題としては、自然数\(n\)を\(3k, 3k-1, 3k-2\)に分けて考えればいいね。\(k\)は自然数ね。\(n=3k\)のとき、
$$n=3k, n^{2}+2 = 9k^{2}+2$$
だから、\(k=1\)の時だけOKだね。それ以外は\(n\)が素数じゃなくなっちゃう。
\(n=3k-1\)のとき
$$n=3k-1, n^{2}+2 = 9k^{2}+3 = 3(3k^{2}+1) > 3$$
だから、どんな自然数\(k\)でも素数にならない。
\(n=3k-2\)のとき
$$n=3k-2, n^{2}+2 = 9k^{2}+6k+6 = 3(3k^{2}+2k+2) > 3$$
だから、どんな自然数\(k\)でも素数にならない。
うん。こんな感じで、素数というキーワードで因数分解ができない時は、素数、整数の組、存在証明、あまりと連想して、あとは、”3″を鍵にして宝箱を開ければ、中には完答というお宝が入っているんだよ!
確かに! まみの言う通りかも。これが難関大学の整数問題のパターンなのかもね。しかも、数式をいじるだけじゃなくて、推理と実験で犯人を追い込むようなスリルも味わえる!
ね? ね? 整数問題って、面白いよね。
ちょっと、その気持ちもわかったような気がする。他にはどんな問題があるの?
いいね! ようこちゃん、やる気出てきた! 整数特化の問題じゃないけど、ちょっと小休止。こんな問題はどう? 論理的に攻めるという点では良い問題かも。
1986年前期 第1問 百聞は一見に如かず!
$$a_{1}\leq a_{2}\leq \cdots\cdots \leq a_{n}$$
かつ
$$a_{1}+a_{2}+\cdots\cdots+a_{n} = 0$$
を満たすとき、
$$a_{1}+2a_{2}+\cdots\cdots+na_{n} \geq 0$$
が成り立つことを証明せよ。
これは、ちょっと数式を弄くり回したいような気持ちになるなぁ。
その気持ちをグッとこらえて、言葉で考えてみようよ。
言葉って言ってもなぁ。まず、\(a_{1}\)はマイナスで、\(a_{n}\)がプラスでしょ。それで、\(a_{1}\)から\(a_{n}\)のどっかで、符号がマイナスからプラスになるってことくらいかな。
良いねぇ、ようこちゃん。それが良い気づきだよ。気づいたことを形にするのも大事。\(a_{1}\)から\(a_{n}\)までで初めてプラスになるものを\(a_{k}\)とおいてみよっか。そうすると、\(a_{k-1}\)まではマイナスで、\(a_{k}\)からはプラスだってわかるよね。
うん。そこまではわかる。でも、どうやって証明しようかな。
ようこちゃん。ここで図だよ。証明したい数式をバラバラにして書いてみるんだ。バラバラっていうのは
\(a_{1}+\)
\(a_{2}+a_{2}+\)
\(a_{3}+a_{3}+a_{3}+\)
みたいにすることね。書いてみてよ!
え、う〜ん。まぁ、まみがいうなら、書いてみるけどね。
何か気づかないかな?
え、う〜ん。なんだろう。
よっと!
ちょっと、まみ、机の上に乗ってどうしたの?
Why do I stand up here? (どうして登ったと思う?)
(あ〜あれか。)To feel taller. (背を高くしたいから。)
No. I stand upon my desk to remind myself that we must constantly look at things in a different way. You see, the world looks very different form up here.(違う。あたしが机の上に乗ったのはね、あたしたちはいつも、違う見方で物事をみなきゃいけないんだってことを、思い出すためなんだ。ほら、ここから見ると、世界はまるで変わって見えるよ。)
はいはい。もうわかったから、降りて良いよ。”Dead Poets Society”だね。違った見方で見れば良いってことでしょ。……ああ! こういうこと?
うん、バッチリ! 横じゃなくて、縦に見るんだよ。そうすると、それぞれの列の和は絶対0以上だよね。だって
$$a_{1}+a_{2}+\cdots\cdots+a_{n} = 0$$
だし、それに、ようこちゃんが指摘したように、\(a_{k}\)までは全部負で、その負の数がなくなるんだから。
すごい。この図だけでこの問題解けてるじゃない。
うん。数式をいじるだけが数学じゃないってことだよ。言葉を使って論理的にせめていけば、必ず糸口は見つかるんだ。
良い例だね。次は、あたしが積極的に解いてみたいな。なんか、整数の問題出してよ。
おっけい。じゃあ、これはどう?
1995年前期 第2問 ”d”って逆立ちすると”p”だよね。
ごめん! また、素数だった。ようこちゃん、頑張って。
これは、素数ー因数分解の繋がりで良さそう。
$$a^{p}-b^{p} = (a-b)(a^{p-1}+a^{p-2}b+\cdots\cdots+b^{p-1})=d$$
で\(d\)が素数だよね。\(a-b\)の方が値が小さいから、\(a-b=1\)ということがわかるね。
ウンウン。慣れてきたね。
でもそこからがちょっと。\((a^{p-1}+a^{p-2}b+\cdots\cdots+b^{p-1})\)という式がとっても扱いづらいから、なかなか先に進まないなぁ。
そういう時はさぁ、最初の式に戻ってみれば良いんだよ。今一応\(a-b=1\)ってことがわかったよね。
え〜と、例えば\(a=b+1\)みたいにするってことかな? 代入すると
$$(b+1)^{p}-b^{p}$$
だけど。もしかして、展開しちゃう?
しちゃう。
$$1+_{p}C_{1}b+_{p}C_{2}b^{2}+\cdots\cdots_{p}C_{p-1}b^{p-1} = d$$
かな。それで、これを\(2p\)で割った時のあまりが1に慣れば良いんだから、あ、\(_{p}C_{1}b+_{p}C_{2}b^{2}+\cdots\cdots_{p}C_{p-1}b^{p-1} \)が\(2p\)の倍数になってくれれば嬉しいな。
そうそう! 証明の時には、こうなってくれると嬉しいなぁ、ということを見つければ良いんだよ。そうすれば、次の行動のとっかかりになるからね。あとはそれを証明するだけじゃん。
\(p\)の倍数なのは良いんじゃない? だって、\(p\)は素数なんだから、\(p-1\)以下のもので割り切れることはないよね。\(_{p}C_{r}\)の形をしている式って、ちゃんと書けば
$$_{p}C_{r} = \frac{p!}{(p-r)!r!}$$
だから、r=pじゃない限りは、分子に\(p\)が残るはず。だから、\(p\)の倍数なのはクリア。あとは、偶数だってことだけど。
うん。良い調子だね。
あれ? ていうか\(d\)は素数なんだから、
$$1+_{p}C_{1}b+_{p}C_{2}b^{2}+\cdots\cdots_{p}C_{p-1}b^{p-1} = d$$
$$_{p}C_{1}b+_{p}C_{2}b^{2}+\cdots\cdots_{p}C_{p-1}b^{p-1} = d-1$$
となって、\(d-1\)は偶数じゃない?
ほんとうに? \(d\)は素数だけど、”奇数”じゃないよ!
あ、そうか。\(d=2\)ってこともあるのか、、、って、それはないでしょ。だって\(_{p}C_{1}b+_{p}C_{2}b^{2}+\cdots\cdots_{p}C_{p-1}b^{p-1}\)の最小値って、\(p=3, b=1\)の時で、7だもん。\(d\)は絶対奇数の素数だよ。
うん。それをちゃんと言っておけば、良いんだよ。そうすると、ようこちゃんのいう通り、\(_{p}C_{1}b+_{p}C_{2}b^{2}+\cdots\cdots_{p}C_{p-1}b^{p-1}\)は偶数だね。
ということは、この問題解けたんじゃない? 確かに
$$1+_{p}C_{1}b+_{p}C_{2}b^{2}+\cdots\cdots_{p}C_{p-1}b^{p-1} = d$$
は\(2p\)で割ると1余るよね。ん〜、意外と整数の問題は簡単なんだね。公式をたくさん覚える必要もないし、キーワードを追いながら、「これを示せたら嬉しい」→「証明」っていう流れで進めていけば、自然と解けてしまうって感じ。
素数がらみでいうと、例えばこんなのもあるよ。
2009年甲 第5問 ”p”を探せ。
この問題、とても有名な問題だよ。
え〜と、\(N!\)について、素因数\(n\)の個数は\(N\)を\(n\)で割った商、\(N\)を\(n^{2}\)で割った商、(N\)を\(n^{3}\)で割った商と続けていって、それらを足し合わせたものだったよね。この問題、これだけ知ってたら、できるんじゃ、、、。
う〜ん、実はそうだよ。今の場合\(N=p^{n}\)だからね。
まず\(p\)で割ると、\(p^{n-1}\)
\(p^{2}\)で割ると、\(p^{n-2}\)
\(p^{3}\)で割ると、\(p^{n-3}\)
で、最終的に\(p^{n}\)で割ると、1って感じになるから、\((p^{n})!\)に含まれる\(p\)の個数は、等比数列の和の公式で
$$1+p+p^{2}+p^{3}+\cdots\cdots+p^{n-1} = \frac{p^{n}-1}{p-1}$$
って感じかな。
うん。正解。ちなみに、この問題で、なんで素数が重要だったかわかる?
う〜ん。素数じゃなかったら、めんどくさいよね。”素因数”じゃないとそもそも個数を求めるのが大変だよ。
うん。そういうことだね。素因数の問題だと、こんなのも面白いかも。
1997年前期 第2問 共通点なんてなかった……
キーワードは”素数”と”最大公約数”だから、まみのいう通り、素因数が重要なのか。
そうだね。どこから手をつければいいと思う?
やっぱり、一番見やすい\(_{pq}C_{1}\)かな。これって要は\(pq\)だもんね。この形を見ると、最大公約数の候補は\(1, p, q, pq\)のいずれかってわかるけど、問題文から、\(p\)でも\(q\)でも、\(pq\)でもないってことがわかる。だから、どっかに、\(p\)の倍数ではない数、\(q\)の倍数ではない数があれば嬉しいな。
出たね! こうだったらいいな〜から始まる「”希望”発”証明”着」メソッド。ようこちゃんのいう通り、\(_{pq}C_{k}\ (1\leq k \leq pq-1)\)の中から、\(p\)の倍数ではない数と\(q\)の倍数ではない数を見つけちゃえばいいんだよ。見つけられるかな?
まぁ、まず考えたいのは、分母に\(p\)が現れるような式だから、\(_{pq}C_{p}\)かな。これって、全部書いてみると、
$$_{pq}C_{p} = \frac{pq\dot(pq-1)\dot(pq-2)\cdots\cdots(pq-(p-1))}{p!}$$
だよね。分子は\(pq\)から始めて項数が\(p\)個になるように1ずつ引いたものを掛け合わせればいいんだから。ああ! この分子って、素因数\(p\)が1個しかないじゃん。分母も!
ほんと? じゃあ、証明できる?
だってさ、
$$pq-1, pq-2, \cdots\cdots, pq-(p-1)$$
のどれも\(p\)の倍数じゃないもん。\(p\)の倍数-(\(p\)の倍数じゃないもの)は絶対、\(p\)の倍数にならないよ。あれ? ってことは\(q\)についても同じ?
うん。\(q\)も同じような形しているよね。
$$_{pq}C_{q} = \frac{pq\dot(pq-1)\dot(pq-2)\cdots\cdots(pq-(q-1))}{q!}$$
\(p\)を\(q\)に変えただけ。だから、やっぱり、分母・分子ともに素因数\(q\)は1個しかないよね。
ということは、こういうこと?
1. \(_{pq}C_{p}\)は\(p\)の倍数じゃない。
2. \(_{pq}C_{q}\)は\(q\)の倍数じゃない。
3. \(_{pq}C_{1} = pq\)はpとqだけの倍数。
だから、最大公約数は1。
そういうこと! 素数キーワードは素因数とも繋がりがあるんだよ。素数キーワードの問題をちょっとまとめてみよっか。
与えられた式をみて、因数分解できれば、素数の性質から因数に整数を割り当てる。
2. 素数ー整数の組ー存在証明ーあまりの系統
因数分解できそうになく、整数の組や存在証明を要する問題は、整数をある数(D)の商とあまりで分類(特に”3″)。与えられた式がDの倍数になることを示して、整数の組を限定する。
3. その他
(例)素数ー素因数の個数
素数関連以外の問題も興味ある?
そうだねぇ、少しやってみたいかな。
じゃあ、これはどう?
2014年 第5問 京大のお家芸、”3″の倍数での整数表現
さて、出たよ、出たよ! ミスタースリー。
そんなテンション上がんないよ。
でも、この式を見たら、まずやりたくなることない?
そうだねぇ。とりあえず、因数分解してみたくなるかな。
$$a^{3}+b^{3} = (a+b)(a^{2}-ab+b^{2})$$
的な。これが81で割り切れるってことは、素因数3を4つも持っていないとダメなんだね。しかも、\(a, b\)ともに3の倍数ではないのかぁ。
ようこちゃん。次のシナリオは浮かんでいるけど、頭の中でちょっと嫌がってない? ま〜た、その計算するの? みたいな。
う〜ん。\(a=3n\pm1\)と\(b=3m\pm1\)を試すのかなぁとか思ってる。確かに、これ、さっきやったよね。今回は\(a, b\)が対称だから、
$$(a, b) = (3n-1, 3m-1), (3n-1, 3m+1), (3n+1, 3m+1)$$
の3パターン試せばいいんだけど。いやだなぁ。
ようこちゃん、ファイト! 合同法はまた今度やるからさ!
しょうがないなぁ。
1) \((a, b) = (3n-1, 3m-1)\)のときは
$$a^{3}+b^{3} = (3n+3m-2)(9m^{2}-9mn-3m-3n+2)$$
だから、3の倍数にならないから、ダメ。
2) \((a, b) = (3n-1, 3m+1)\)のときは
$$a^{3}+b^{3} = 9(n+m)(3m^{2}-3mn-3m-3n+1)$$
だから、とりあえず9の倍数だね。2番目のカッコは3の倍数にはならないから、\(n+m\)が9の倍数になる必要がある。
3) \((a, b) = (3n+1, 3m+1)\)のときは
$$a^{3}+b^{3} = (3n+3m+2)(9m^{2}-9mn+3m+3n+2)$$
だから、3の倍数にならない。
そうすると2番目のパターンだけを考えればいいね。
ようこちゃんのいう通り、\(n+m\)が9の倍数になれば、条件を満たせるね。
9の倍数だけど、\(a^{2}+b^{2}\)を最小にしたいんだから、\(n+m=9\)にすればいいのよね。そうすると\(a, b\)はそれぞれ、
$$a = 3n-1, b=-3n+28$$
にすればいいから、あとは\(a^{2}+b^{2}\)を計算すればいいね。
ようこちゃん、がんば!
計算は私の役割なのね。物理のときは、まみに計算してもらうからね!
$$f(n) = a^{2}+b^{2} = 18n^{2}-174n+785$$
で、重要なのは頂点だね。頂点は
$$n = \frac{174}{36} \simeq 4.83$$
だから、一番近い整数は5だね。\(n=5\)で最小になる。
つまり、\(a=14, b=13\)。\(a, b\)は対称だから、\(a=13, b=14\)のときもOK。このとき\(a^{2}+b^{2} = 275\)でこれが最小値。
大正解!
うん。整数の問題、なんかできるようになったかも。
じゃ、ようこちゃん、最後の問題!
え? まだやるの? 今日のまみ、気合い入りすぎじゃない?
いいから、いいから。それ!
1998年前期 第2問 \(2^{n}\)倍数のレシピ
(1) \(n\)は3以上の自然数で、ある自然数\(a\)に対して\(f(a)\)は\(2^{n}\)の倍数になっているとする。このとき\(f(a)\)と\(f(a+2^{n-1})\)のうち、少なくとも一方は\(2^{n+1}\)の倍数になっていることを示せ。
(2)任意の自然数\(n\)に対して\(f(a_{n})\)が\(2^{n}\)の倍数となるような自然数\(a_{n}\)が存在することを示せ。
今までと毛色が違うように見えるけど、内容は、易しめだよ。
そうだねぇ。とりあえず、やってみたくなるのは代入かな。
$$f(a) = a^{2}+7$$
$$f(a+2^{n-1}) = 2^{2n-2}+2^{n}\cdot a+7+a^{2} = 2^{n}(a+2^{n-2})+a^{2}+7$$
\(f(a)\)が\(2^{n}\)の倍数ということはわかっているから、これが\(2^{n+1}\)の倍数になっているかもしれないね。その場合はよくて、もしそうじゃない場合は\(f(a+2^{n-1})\)が\(2^{n+1}\)の倍数になっていればいいんだね。\(n\)が3以上だから、\(2^{n}(a+2^{n-2})\)は\(2^{n}\)の倍数だってことがわかるし、問題はここからだね。
ようこちゃん、\(f(a)\)の式を書き直すとどうなる?
え〜と、\(2^{n}\)の倍数で、\(2^{n+1}\)の倍数じゃないから、
$$a^{2}+7 = p\times2^{n}$$
ただし、\(p\)は奇数。かな。あ、そうか、まだ因数分解できるってこと?
$$f(a+2^{n-1}) = 2^{n}(a+2^{n-2})+a^{2}+7 = 2^{n}(a+p+2^{n-2})$$
だけど、括弧が偶数になっていればいいなぁ。\(p\)は奇数だから、\(a\)が奇数になっていればいいんだけど、、、って、\(f(a) = a^{2}+7\)が偶数なんだから、\(a\)は奇数に決まってるか。あ、じゃあ、\(f(a+2^{n-1})\)は\(2^{n+1}\)の倍数じゃん。証明終わり!
うん。頭に思い浮かんだことをやりながら、「”希望”発”証明”着」メソッドを使っていれば、自然と証明できちゃうね。
(2)は(1)を使えばできそう。\(f(a)=2^{n}\)の倍数になるような\(a, n\)を一つ見つけれくればいいんだよね。それ以降は、\(f(a)\)か\(f(a+2^{n-1})\)が\(2^{n+1}\)の倍数になってくれるからね。これを繰り返せば、どこまでも作れる。
うんうん、それで、見つかった?
そりゃ、\(a=1\)でしょ。8は\(2^{3}\)なんだから。これで、\(n=1, 2, 3\)はクリア。\(n\geq4\)からは、帰納法でできそう。
よし! じゃあ、最後の仕上げ、頼んだ、ようこちゃん。
おっけい。
\(n=4\)のとき、\(a = 1+2^{2} = 5\)とすれば、\(f(a) = 32\)となって成立。
\(n=k(k\geq4)\)のとき、\(f(a_{k}) = 2^{k}\)となる\(a_{k}\)が存在するとする。このとき(1)から、\(a_{k+1} = f(a_{k})\)または、\(a_{k+1} = f(a_{k}+2^{k-1})\)とすれば、\(f(a_{k+1})\)は\(2^{k+1}\)の倍数になる。よって、\(n=k+1\)のときも成立する。
数学的帰納法により\(n\geq 4\)以上の全ての自然数\(n\)についても成立する。
以上より、全ての自然数\(n\)について、題意が証明された。
うん! バッチリだね。
あ〜、疲れた! でも、整数の問題を練習できてよかった。
ちょっと休憩しよっか。あたしも疲れたぁ。
お疲れ様。今日はなんか奢っちゃおう!
え? ほんと? いつもはそんなこと言わないのに。じゃあ、いつもの喫茶店に行こ! ”よしこ”さんにも会いたいし。
よし、じゃあ、行こ!
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