高校数学では、解法のパターンを暗記するというのが一つの勉強法になっています。そのこと自体は悪くないと思いますが、その解法の意味(なぜその解法が思い浮かぶ? なぜその解法が成り立つ? なぜその解法が必要?)を理解することなく、パターンを暗記してもその先で、応用が効かなくなってしまいます。本当に難しい問題と相対したとき、解法の意味を知っている人ほど、地に足のついた問題分析ができるものです。そういう問題分析ができれば、その問題が結局どんな解法で解けるのかを、頭の中にインプットしたデータベースの中から探り当てて、解法のパターンに落とし込むことができるようになります。今回の記事では、解法の意味を「必要条件」と「十分条件」で説明できる問題を選び、紹介していきたいと思います。
恒等式における数値代入法
が恒等式となるように定数\(a, b, c\)の値を定めよ。
ある等式を恒等式にするための定数の必要十分条件を求めさせる問題です。この手の問題を解くときに数値代入法を取ることができます。具体的な値を代入して、そこから得られる\(a, b, c\)の値を求めるという手法です。今の場合3つの文字定数がありますから、具体的に3つの値を代入することで\(a, b, c\)の値を決めることができます。どうして、この解法が成り立つのでしょうか。
具体的な3つの値として今は\(x=0, -3, 3\)を用いることにします。このとき「ある等式が\(x=0, -3, 3\)で成り立つ」と「ある等式が恒等式となる」ことはどういう関係があるでしょうか。以下の二つの命題を考えます。
(1)「ある等式が\(x=0, -3, 3\)で成り立つ」 ならば「ある等式が恒等式となる」
この命題の真偽を調べます。これは偽ですね。例えば、\(x(x+3)(x-3)=0\)という式を考えると、等式は\(x=0, -3, 3\)で成り立ちますが、恒等式ではありません。
(2)「ある等式が恒等式となる」ならば「ある等式が\(x=0, -3, 3\)で成り立つ」
この命題は、真ですね。恒等式ではいかなる\(x\)の値でも成り立つので、その中の一部、\(x=0, -3, 3\)を代入しても成り立ちます。
以上より、具体的な数値を代入して等式が恒等式になるということは、その等式が恒等式となるための「必要条件」であるが「十分条件」ではないと言えます。ゆえに、数値代入法とは「必要条件からの候補の絞り込み」の解法の一種であることがわかります。それらの数値を代入すると、\(a=6, b=5, c=7\)と求められます。これらの値はまだ、解答になるための(十分条件を満たしていない)「必要条件」にすぎません。求めるのは解答になるための必要十分条件であるため、これらの値が「十分条件」となるかを確認することが必要です。そのために、問題の式に\(a=6, b=5, c=7\)を代入して問題文が確かに恒等式となることを確認する作業が必要なのです。
この数値代入法を学んだとき、このような「必要条件」「十分条件」のことを考えず、ただ「数値代入」→ 「得られた数値を条件式に当てはめて確認」という行動だけを解法パターンとして暗記してしまうと、他のパターンへの応用が難しくなります。というのも、数値代入法の解法の意味を理解している人ならば、「必要条件」だけで答えを出している問題は必ず「十分性を確認しなければならない」ということまで理解できているはずだからです。そうすると、その哲学で問題をとかなければならない問題と遭遇した場合でも、適切に対応できるはずです。
このように、解法の意味を理解した上で、数値代入法というパターンを覚えるというのが知識を汎用的に用いるためには重要であると思います。
推定および帰納法
先ほどの例では「必要性」から「十分性」を確認するような解法でした。他にも必要性から十分性を確認するようなものがあります。数学的帰納法を用いた問題で、一般項を推定してから帰納法で証明するという解法を取ることがありますが、その解法はまさしく「必要性」から「十分性」への流れを汲んでいます。例えば、次のような問題を考えてみます。
このように、一風変わった漸化式にお目にかかったときは、適当に\(n\)を代入していって一般項を推定するというのが常套手です。今の場合であれば
$$a_{2} = \frac{1}{4},\ a_{3} = \frac{1}{7},\ a_{4} = \frac{1}{10},\ a_{5} = \frac{1}{13} $$
となるので、
$$a_{k} = \frac{1}{3k-2}$$
と推定できることになります。この手の解法パターンを知っている方は、推定した後に必ずそれが正しいことを帰納法で示さなくてはならない、ということを知っていると思います。では、なぜそのような証明が必要なのでしょうか。確かに、直感的には\(n=2, 3, 4\)で成り立つことを試しただけだから一般の場合で示さなければならない、という風に考えると思います。数値代入法で、「具体的な値を代入して成り立つこと」というのはあくまで「必要条件」でしかなかった、ということが頭に入っていればここでの十分性の確認は自然なことであるとうなづけるのではないでしょうか。すなわち
$$a_{k} = \frac{1}{3k-2}$$
であることは、これが問題の一般項であるための必要条件にすぎない、ということです。これが十分条件であることを示すには、一般項がこのようにかけるときに全ての自然数\(n\)について、
$$a_{1}=1, a_{n+1} = \frac{a_{n}}{1+3a_{n}}$$
となることを示す必要があります。十分性を示すのだから、示すべき命題は
「一般項が\(a_{k} = \frac{1}{3k-2}\)とかける」ならば「全ての自然数について、\(a_{1}=1, a_{n+1} = \frac{a_{n}}{1+3a_{n}}\)となる」ことです。全ての自然数について成り立つことを示すのだから、「数学的帰納法」を用いるのが自然であるということです。
このように、「推定および帰納法」と「数値代入法」は見かけ上非常に異なる問題にも関わらず、本質的に行なっていることは「必要性」から条件を絞り込み、その条件が「十分性」も満たしていることを確認している、という点で共通しているわけです。そう考えると、これらの解法パターンを2種類とも暗記するというよりは、「必要性」から「十分性」へのプロセスを踏む問題としてinputした方が、効率がいいですよね。効率がいいだけではなく、さらに他の問題にも応用がきくinputの仕方です。これが解法のパターンを覚えるだけでなく、その解法の意味を理解するということです。
東京大学や京都大学、難関医大、早慶上智など有名な大学に合格するような受験生は、多かれ少なかれこのようなinputの仕方を行なっているのだと思います。特に難関大学の数学のテストでトップクラスの点数をとるような集団にとっては、無意識に行なっていることだと思います。赤本などでoutputを試す前段階として、チャート式、学校の問題集で解法のパターンを暗記するような段階においては、解法の意味を問いながらパターンを頭に入れていくという勉強が重要ではないかと思います。
軌跡と領域
必要性・十分性が問われる分野として、軌跡と領域の問題は有名です。例えば次のような問題を考えてみます。
軌跡の問題では、動く点を\((s, t)\)とおいて、求めたい点\((X, Y)\)に関する条件式を組み立て、動く点の図形の方程式にそれらを代入するというのが常套手です。今の場合であれば三角形の重心\(P(X, Y)\)に関する条件として、動く点\(Q(s, t)\)を用いると
$$\frac{6+3+s}{3} = X,\ \frac{0+3+t}{3} = Y$$
が成り立ちます。これらを\(s, t\)に関する式に書き直すと
$$s = 3X-9, t = 3Y-3$$
です。これらを\(s^{2}+t^{2}=9\)に代入して整理すると
$$(X-3)^{2} + (Y-1)^{2} = 1$$
です。
さて、ここからが軌跡のポイントなのですが、条件\((X-3)^{2} + (Y-1)^{2} = 1\)を満たす点\(X, Y\)の集合は解答になるための必要十分条件になっているかどうか、ということです。このことを考えるためには、最初に使った条件に戻る必要があります。つまり
$$\frac{6+3+s}{3} = X,\ \frac{0+3+t}{3} = Y$$
という条件です。これは点\(P\)が三角形ABQの重心であることと同値の条件かどうかということが問われている問題です。同値性を確かめるには、2つの命題を用意する必要があります。
「点\(P\)が三角形ABQの重心である」ならば「\(\frac{6+3+s}{3} = X,\ \frac{0+3+t}{3} = Y\)」と「\(\frac{6+3+s}{3} = X,\ \frac{0+3+t}{3} = Y\)」ならば「点\(P\)が三角形ABQの重心である」という命題です。
(1)「点\(P\)が三角形ABQの重心である」ならば「\(\frac{6+3+s}{3} = X,\ \frac{0+3+t}{3} = Y\)」について
これは重心の性質から真であることがわかります。
(2)「\(\frac{6+3+s}{3} = X,\ \frac{0+3+t}{3} = Y\)」ならば「点\(P\)が三角形ABQの重心である」について
これは、この時点では反例が存在する場合があります。というのも、もし\(X, Y\)がある絶妙な値をとり、3点\(A, B, Q\)が一直線になるような場合が生じれば、三角形ABQが存在しなくなり、結果的に点\(P\)が三角形の重心ではなくなってしまいます。
以上のことから、「\(\frac{6+3+s}{3} = X,\ \frac{0+3+t}{3} = Y\)」という条件は「点\(P\)が三角形ABQの重心である」ための必要条件にすぎず、十分条件ではないということがわかります。ということは、それと同値な条件
$$(X-3)^{2} + (Y-1)^{2} = 1$$
に関しても、同様に必要条件にすぎないということがわかります。よってこのまま求める点Pの軌跡を答えてしまうと、解答は「必要条件」となってしまい、必要十分条件になりません。ゆえに、不完全な解答になるわけです。これを回避するためには、十分性の確認が必要となるため、
$$(X-3)^{2} + (Y-1)^{2} = 1$$
上の全ての点で、問題の条件を満たす(今の場合、直線ABと点Qが動く円は交わらないから、\(A, B, Q\)が一直線になることはない)ことを確認する必要があるのです。それを、解答ではよく「逆に\((X-3)^{2} + (Y-1)^{2} = 1\)を満たす全ての点は題意を満たす」などとしています。「逆に」という表現がなぜ必要なのか、なぜ逆に、なのかということは「必要条件」「十分条件」を正確に捉えていれば自ずと見えてくるものだと思います。
相加・相乗平均を用いた最小値の決定
「十分性」を「必要性」だと思って答えを出してしまうレアなケースを紹介します。
できる限り簡単な数式にしましたが、この手の問題には様々なバリエーションがありますね。ただ、この問題を相加・相乗平均を用いて解くときに、気をつけなければならないポイントがあります。相加・相乗平均の公式より
$$x+\frac{1}{x} \geq 2$$
よって、Pの最小値は\(2\).
「よって」という繋がりは「後ろの条件」が「前の条件」の「必要条件」となる場合に適用されます。\(P\)の最小値が\(2\)であることは、条件を満たすすべての\(x\)について\(x+\frac{1}{x} \geq 2\)という条件になるための必要条件かを考える必要がある、ということです。今までと同じように考えます。
(1)「\(P\)が最小値\(2\)を持つ」ならば「条件を満たすすべての\(x\)について\(x+\frac{1}{x} \geq 2\)」
この命題は明らかに真ですね。
(2)「条件を満たすすべての\(x\)について\(x+\frac{1}{x} \geq 2\)」ならば「\(P\)が最小値\(2\)を持つ」
これは反例をあげることができます。例えば条件を満たすすべての\(x\)について、\(x+\frac{1}{x} \geq 3\)となる場合、「条件を満たすすべての\(x\)について\(x+\frac{1}{x} \geq 2\)」を満たしますが、\(P\)が最小値\(2\)を持つとは言えませんね。
このように、最小値が2であるということは、相加相乗平均が主張する「条件を満たすすべての\(x\)について\(x+\frac{1}{x} \geq 2\)」であるための十分条件でしかない、ということです。「必要性」を示す問題だったということです。上の(2)が真であることをいうためには、条件を満たす\(x\)の中に、\(x+\frac{1}{x}=1\)を満たす\(x\)が少なくとも一つ存在する、ということを示すことが必要です。解答では、等号成立条件を示すという形で、このことを確認しています。今の場合なら\(x=1\)の時に等号が成立するので、必要性も満たされることから、\(P\)の最小値が\(2\)になると言って良いことになります。
いかがでしたでしょうか。「必要条件」「十分条件」には、かなり苦戦されている方が多い印象を持ったので、そのテーマを取り上げてみました。他にも「必要条件」「十分条件」を意識的に考えながら解いていきたい問題を見つけたら記事を更新していきたいと思います。
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