自問
数列\({a_{n}}\)は\(0<a_{1}<3, a_{n+1}=1+\sqrt{1+a_{n}} (n=1, 2, 3, \cdots)\)を満たすものとする。このとき、次の(1), (2), (3)を示せ。
(1) \(n=1, 2, 3, \cdots\)に対して、\(0<a_{n}<3\)が成り立つ。
(2) \(n=1, 2, 3, \cdots\)に対して、\(3-a_{n+1}\geq\frac{1}{3}(3-a_{n})\)が成り立つ。
(3) \(\lim_{n\to\infty}a_{n}=3\)
自答
まずは、この問題、素直に解いてみることを考えてみます。特性方程式を用いて変形できないタイプの漸化式を用いた証明問題では、かなり高い確率で数学的帰納法が有効です。この問題の(1)に関しては、実際に有効で、早速その方法を適用してみましょう。
(1) \(n=1\)のとき、\(a_{1}\)は明らかに条件を満たす。
\(n=k\geq1\)のとき、\(0<a_{k}<3\)が成り立つと仮定する。漸化式より
\(a_{k+1} = 1+\sqrt{(1+a_{k})} < 1+ \sqrt{(1+3)} = 3\)
よって、\(n=k+1\)の時も成り立つ。ゆえに、数学的帰納法からすべての自然数について、題意を満たすことを確認した。
帰納法の利用は、国公立大の入試問題のように記述を要求される問題では、とても有効です。何しろ教科書にその証明方法のテンプレートが載っているわけですし、ロジックも非常にシンプルなので採点がしやすいという大学側のメリットもあるわけです。
この手の問題に対しては、(2)のような変形問題が合否を分けるポイントです。言ってみれば(1)は挨拶、(2)はふるい、という感じでしょうか。
(1) もしもし。あなたはうちの大学を受ける資格がありますか?
(2) 資格はあるようですね。では、あなたの力を見せてください。
という感じでしょうか。兎にも角にも(2)を解くと解けないとでは、段違いと言えます。変形の常套手段として、三角関数などの置き換えがありますが、この形であればすぐに有理化へと頭を切り替えていきたいところです。特に、大学数学では、\(a + \sqrt{b+x}\)のような形を変形するときには、それが分子にあろうと分母にあろうと有理化のテクニックがヒットすることが多いです。
(2)
\begin{eqnarray}
3-a_{n+1} &\leq& 2-\sqrt(1+a_{n}) = \frac{3-a_{n}}{2+\sqrt{1+a_{n}}} \\
&\geq&
1-\frac{1}{3}a_{n} \leq \frac{1}{3}(3-a_{n})
\end{eqnarray}
これで、証明終了です。行数が短いから、(1)よりもやさしいように見えがちですが、有理化というシンプルながら重要な考え方が出てこないとドツボにハマり、なかなか証明のゴールが見えてこないかもしれません。さて、いよいよ、この問題の本番。近似の連鎖を利用します。連鎖というのがどういう意味なのか、見てもらえばわかると思います。
(3)
\begin{eqnarray}
3-a_{n+1} &\leq& \frac{1}{3}(3-a_{n}) \\
3-a_{n} &\leq& \frac{1}{3}(3-a_{n-1}) \\
3-a_{n-1} &\leq& \frac{1}{3}(3-a_{n-2}) \\
3-a_{n-2} &\leq& \frac{1}{3}(3-a_{n-3}) \\
&\cdots\cdots& \\
3-a_{2} &\leq& \frac{1}{3}(3-a_{1}) \\
\end{eqnarray}
1行目は、(2)で示した形をそのまま書いたものですが、それ以降の行は、(2)ですべての自然数\(n\)について成り立つことを示したことに根拠があります。この連鎖はどこまでいくのかというと\(n\)が自然数となるものすべてなので、上に書いた通りです。この連鎖をグッと睨むと、それぞれ2行ずつを見たとき、右上の式に左下の式を代入していけるということがわかります。これが連鎖的に起こり、しかも不等号の向きはすべて同じなので、同じように代入していったとき、不等号の向きが変わることはありえません。つまり、上の式は1つの式で書くなら
$$3-a_{n+1} \leq \left(\frac{1}{3}\right)^{n}(3-a_{1})$$
\(n+1\)だとまどろっこしいので、これを\(n\)に直しておくと
$$3-a_{n} \leq \left(\frac{1}{3}\right)^{n-1}(3-a_{1})$$
$$a_{n} \geq 3 – \left(\frac{1}{3}\right)^{n-1}(3-a_{1})$$
です。また\(a_{n}\)の条件から
$$3 \geq a_{n} \geq 3 – \left(\frac{1}{3}\right)^{n-1}(3-a_{1})$$
が成り立ちます。さて、左辺・右辺の式は共に収束する式なので\(n\)に関する極限値があることがわかります。すなわち
$$\lim_{n\to\infty}\left(3 – \left(\frac{1}{3}\right)^{n-1}(3-a_{1}\right) = 3$$
です。そこで、はさみうちの原理から
$$\lim_{n\to\infty}a_{n} = 3$$
だと計算でき、これが示したい事柄でした。
いかがでしたでしょうか。この問題には様々な類型があります。といっても、(1)と(3)の流れはほとんど一緒で、違うのは(2)の変形方法となります。難関大と呼ばれる大学では、特に(2)で工夫を凝らして出題されるので、高校数学で常識となっている変形方法は瞬時に出てくるようにしておかないと時間内にそれを見つけるのが大変かもしれません。
ところで、この問題、次のようなからくりがあるのは有名な話です。
上の図のように、\(f(x) = 1+\sqrt{1+x}\)という関数を用意します。これは与えられた漸化式に置いて、左辺を\(f(x)\), 右辺の\(a_{n}\)を\(x\)に変えたものです。そこに\(g(x)= x\)という直線を書き入れて、さらに交点を求めると、\(x\)座標はちょうど3になっていますね。この3と(3)で求める3は偶然一致したものではないのです。何をか言わんや、この3が(3)の3なんです。
さて、上の図にさらに次のように情報を書き足します。
問題のように\(0<a_{1}<3\)を満たす定数\(a_{1}\)を書き入れ、その値の時の\(y\)の値を\(a_{2}\)と意味ありげに書いておきます。実際、与えられた漸化式においても
$$a_{2} = 1+\sqrt{1+a_{1}}$$
は成り立ちます。
ここで、\(g(x)=x\)という直線を使って、\(a_{2}\)を\(x\)軸に移動させます。やり方は簡単で、\(y=a_{2}\)と直線の交点の\(x\)座標をみればいいわけです。それで、\(a_{1}\)と同じく、\(x=a_{2}\)の時の\(f(x)\)の値を\(a_{3}\)と書きます。
お気づきでしょうか。\(f(x) = 1+\sqrt{1+x}\)の右辺の\(x\)に\(a_{k}\)を入れるとその\(y\)の値は\(a_{k+1}\)となっているのです。この方法なら次々に\(a_{1}, a_{2}, a_{3}, \cdots\)を\(x\)座標にできるので、その\(y\)の値はそれに対応して\(a_{2}, a_{3}, a_{4}, \cdots\)を意味していることになります。
ならば、察しの良い読み手の方にはお分かりの通り、これを永遠に続けていった結果、
$$\lim_{n\to\infty}a_{n}$$
が指し示されることになるわけです。自分で図を書きながらやってみるとわかりますが、これは、2つの関数の交点に行きそうだ、とわかります。交点の座標は\((3, 3)\)なのだから、\(a_{n}\)は3に行きつくはずですよね。
出題者はこのようにして、どのような関数を作れば、どのような点に収束するかを自在に知ることができるのです。
このようなからくりがわかると、皆さんも自分で関数を作って似たような問題を作ることができますね。
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